セフレでなぜ悪い

広告業界で働く高学歴高収入独身会社員(30代)が年下のセフレに翻弄されるありさま。© 2017 セフレでなぜ悪い All Rights Reserved.

東京の夜明け

仕事して、セックスして、帰ってきたこの東京の夜明けが好きだ。身体に残る退廃的な深夜の情事の匂いと、ひんやりしたアスファルトから香る清涼な新しい朝の匂い。タクシーから降りると、通りの先に凛と佇む東京タワーが見える。東京タワーは間違いなく夜明けが最も美しい。

 

わたしは東京タワーに向かって歩き出しながら、手前でタクシーを降りて行った倫くんとの会話を反芻する。

 

「ねえ、倫くんじゃあ今度アオカンしようよ」

「この歳でそのリスク冒します?先輩」

「えー。だってそうしないと倫くんが飽きちゃうじゃん」

「いや、そうでもないですよ。僕、飽き性でもないし」

 

わたしは、彼のほうへ向き直ったが、何も言えなかった。彼は左眉を少し上げて、わたしの発言を待つような隙を見せたが、わたしは「そうなんだ」とだけ言った。

 

ものすごく大袈裟に、論理飛躍させて翻訳すると、「別に僕はりかさんに飽きない」と聞こえた。わたしはただ目をぱちくりさせるばかりだった。

 

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真昼の愛人たち

車通りの多い国道に、里佳さんはほどなく現れた。速足で駆けつけるヒールの音が、僕を喜ばせた。時間はまだ14時過ぎ。僕は右手を挙げてタクシーを止めた。

「急ぎましょう」

「うん。吉田さんとのミーティング飛ばしちゃった」

「僕も、後輩のOB訪問キャンセルしちゃいました」

「じゃ、1時間はあるね」

僕は会社の裏から彼女の家までの道を、運転手に的確にガイドする。それを聞いて里佳さんがちょっと笑ったのがわかった。道順なんて覚えている。何回も通っているんだ。そのことを里佳さんが喜ぶのが、可愛らしくもあり、どうでもよくもあった。

 

真昼間に、僕らは会社を抜け出して、ファックしに行く。

 

さっきまでは、もしかしたら里佳さんからもう返事がないかもしれないと、少し思っていた。返事があるまでの2時間は、ずっと同じ見積書をこねくり回しているだけだった。でも返事があって、10分で僕らは落ち合った。アガった。ファックそのものが大事というよりも、この時間でも、僕が彼女にアクセスできるというということにほっとした感覚があった。いや、違うな。もう軽く勃っているし、そういう面倒な情動はどうでもよくて、僕はただの依存症で、ただ昼間にセックスがしたくなっただけだ。そのほうが、僕たちらしい。

 

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真夜中にフレンチキス

他の女とも連絡を取っている。

 

わかっていたことだけど、突き付けられてわたしは暗い気持ちになった。

 

酔っ払って、最中に、裸のまま眠ってしまった彼を背にして、わたしは彼のiPhoneを静かにテーブルに置いた。

 

かなしい、でもない。くるしい、でもない。ただ疲れた。

 

わたしは何に耐えているんだろう。

 

膝を抱えて目を閉じていると、後ろから急に腕を摑まれた。

 

「ほら、はやくいれろよ」

 

目を醒ました倫くんはもう勃起していて、わたしの腰を乱暴に摑んだ。

 

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無防備な絶頂の瞬間

「中出しの何がいいの?」

って倫くんが聞く。

「うーん。気持ちいい?」

荒い息の合間でとりあえずそう答える。

 

でも別に体感の快感はそんなに変わらない。ただ、あの子の一番無防備な絶頂の瞬間を、子宮で抱き止められること。そこにわたしのカタルシスがあるだけだ。

 

↓ 感想の、続き。 

  

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いっくんが結婚した

わたしが世界一好きだったいっくんが結婚した。
 
twitterで彼のフルネームを検索したら、彼の元教え子だと思われるJK二人が全世界公開アカウントで(鍵垢使え10代)彼の結婚について盛大に論じていた。彼自身がSNSに登場することはきっと死ぬまでないだろうが、元教え子であるJKたちのSNS感覚が卓越しすぎていて、彼の知らぬところで、彼の結婚は全世界に発信されていた。
 
相手は同じ高校の、国語の先生らしい。
 
そうか。いっくん結婚したのか。
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育ちの悪いわたしたちの性愛

香苗が結婚するそうだ。小学校の同級生の弁護士先生と。大手弁護士事務所所属のその先生は、ボストンに留学するとのことで、香苗についてきてほしいとプロポーズしたらしかった。交際期間は3か月。香苗らしいスピード決断だと思った。

 

なぜわたしを選んだの?という香苗の問いに対して、その弁護士先生はこう答えたそうだ。

 

「育ちがいいから」

 

年度末、薄手のコートでもなんとか出歩けるようになったそのぬるい夜半。グラスに半分ほど残った赤い液体を凝視してわたしは固まった。

 

「育ちが・・?」

 

「そう。育ちがいいっていうのはその・・家庭観のことを言ってるんだよね。やっぱり、親が両方とも家にいて、子供と親は食卓を囲んで一緒に食事を取るもんだ、子供のころからそういう習慣だったから。みたいな価値観のことを言ってるんだよね。」

 

香苗はワイングラスの脚をぐるぐる回しながら答えた。

 

「そういう家庭を、我々世代も当たり前に築くのである、みたいな、暗黙の通念のようなものが、共通している。わたしと彼は。ってことを、旦那は言ってるんだと思う」

 

ああ、そうか。そういうものなのか。

 

香苗が急に繭の向こうに行ってしまったように思えた。その柔らかいシェルターに逃げ込んだのは、わたしか香苗か。

 

わたしは、「複雑な家庭出身の秀才」代表だ。いや、そんな大袈裟に背負い込むほど大したこともなくて、別にふつうに幸せに母親に愛されて育ったことは断っておくが、まあ母親は父親や継父に包丁を振り回し、あちこちのガラスを蹴破る母親だった。そんなだったからわたしは勉強した。結果「いい大学」に入った。

 

そのわたしの前で「育ちがいい」ものどうしの共通の価値観について語る香苗を、とても遠く感じた。結婚とは薄情なんだろうか。

 

わたしは瞬時に倫くんに思いを馳せた。そんなことで傷を舐め合っているつもりはないが、そう、倫くんの家も片親だ。ろくに実家に帰っていない素振りを取りながら、彼が、母親の生活費を負担しているのを、わたしは知っていた。

 

わたしには倫くんを選ぶ理由があり、香苗にはその弁護士に選ばれる理由がある。それが、見てきた家庭に依存するなんて、当たり前と言えば当たり前だが、なんというか、取りつく島がない。

 

わたしが、倫くんにたどり着くまでの道々で関わってきた男・・・誰も彼も何らかの欠落感を抱えた男ばかりだったが、みんな、公務員どうしとか、教師どうしとか、会社員どうしの、欠けることない夫婦の息子だった。別に、なんてことのない中流家庭の息子たちだった。そういう彼らには、わたしの実家の話は「壮絶」に映るらしかった。早い話が十中八九、引かれた。わたしはわたしで、彼らの不平不服を聞いていて「何不自由なく育ったボン」が甘えたことを抜かしているようにしか思えないことが多々だった。

 

そのころはまだ若すぎて、そういう背景を抱えたそういう価値観のわたしでは、見たことも体験したこともない「絵に描いたような幸せな家庭像」を描き出せないのではないか・・なんて、大層な理由でわたしを振る男はいなかったが、まあでも、詰まるところ、似たような理由だったのかもしれない。究極的に、家庭も結婚も母親も父親も信じないわたしとは、相容れなかったのかもしれない。

 

倫くんとは、面と向かって家庭の話をしたことはない。でも3か月前、また母が包丁を持ち出して通報されて、わたしが急遽実家に帰ったことを彼は知っているし、なんてことない飲み会でたまたま誰かに訊かれて、事もなげに「いや、うち片親なんで」と答える倫くんの、冷たい横顔をわたしは知っていた。

 

坂口安吾も「私は昔から家庭といふものに疑いを抱いてゐた」と言っている。

 

家庭。

 

それがなんなんだ。

 

ライフ・イズ・ハード。

家庭が壊れる音はガラスが割れるような音ではなくて、土壁がぼろぼろとこぼれる様な、柱の亀裂がみしみしと広がるような、鈍い音だ。わたしも倫くんも10代でそれを経験してきた。それぞれに鋭い感性で、大人を観察して、期待し願い、諦め、背を向けて、それでも残った親を愛するように努めてきた。そういう思春期だった。

 

そういうわたしたちが寄り合って、「別に結婚なんてしたくないし」「付き合いたくもないし」「セフレが一番楽だし」って性器を舐め合っている。自分たちに幸せな家庭の構築なんて。憧れるだけ哀しくて虚しくて切ないだけだと諦めている。

 

わたしたちは皮肉屋、冷笑家。そしてその実は恐れているだけ。家庭を構築して、壊すことを。 でも、いまはどうしようもなかった。別に被害者意識も持たないかわりに、こういう性愛はこういう性愛だと、ふたりだけで閉じていたいのだった。

 

 

香苗はわたしと倫くんのことは何も聞かなかった。用意していた結婚祝いを手渡して、わたしたちは日付が変わる前に別れた。

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二村ヒトシ氏、宮台真司氏「どうすれば愛しあえるの」を読みながら思い出したことをつらつらと。 

 

もう残ってなんかいない愛情

じぶんのなかに、もう残ってなんかいないと思っていた愛情を見つけたときに、意外なほど打撃を受ける。

 

もうとっくに愛情の芽生えなんて諦めたのに、だからいろいろ切り捨ててセフレやってるのに、それでもまだ立ち上がる「愛おしい」に眩暈がする。

 

土曜の昼間に、わたしの部屋の、アイボリーのシーツのうえで、寝息を立てる倫くんの、背骨をなぞりながらわたしは打ちのめされている。

 

あんなに那奈が「家にあげるな」って言っていたのに、(まあなぜ那奈がそこにこだわるのかはよくわからなかったのだけども、)わたしは簡単にその禁忌を破って倫くんをこの引っ越したばかりの部屋にあげた。引っ越した部屋が彼の家から徒歩5分なのは断じて意図したのではない。不動産屋に「この界隈で探す人間でこの部屋に決めない奴は馬鹿だ」とまで言われたから決めただけであって、結果として倫くんの家から徒歩5分になっただけだ。

 

早春の休日の昼間の、白くて柔らかい光は、わたしたちの平日夜中だけの退廃的な関係を、なにやら穏やかで幸せなものに見せる。

 

すやすや寝すぎだろ、倫くん。どんだけ。初めて来たわたしの部屋で。くつろぐわけ。

 

いよいよ引き返せないぜ。これはどうしたもんだろう。神様。どうしてくれますか。

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